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最高裁判所第三小法廷 昭和40年(オ)900号 判決 1968年2月20日

上告人

旧名侃二

牧野耕三

上告人

有限会社牧野自動車工作所

右両名訴訟代理人

村林隆一

岡時寿

今中利昭

被上告人

高士政郎

右訴訟代理人

赤鹿勇

門脇正彦

成瀬寿一

主文

原判決中、請求に関する異議の訴についてなされた判決部分を除き、その余の部分を破棄する。

上告人らの本件附帯控訴を棄却する。

その余の本件上告を棄却する。

訴訟の総費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人村林隆一、同岡時寿、同今中利昭の上告理由一、について。

本件和解調書第二項をいわゆる失権約款と解すべきものとする所論指摘の原判決の判断は、その確定した事実関係から、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、引用の判例は本件に適切でない。論旨は、独自の見解に立つて、正当な原判決を非難するに帰し、採ることができない。

同二、について。

本件和解調書第二項の失権約款によつて上告人らと被上告人との間に生じた賃貸借終了の効果を消滅させる旨の合意が上告人らと被上告人との間に成立したとする原判決の認定は、その挙示する証拠関係、事実関係から、是認できるし、右合意を有効とする原判決の判断説示は正当である。原判決に所論の違法はなく、論旨は、独自の見解に立つて、適法な原審の事実認定、それに基づく正当な判断を非難するに帰し、採ることができない。

同三、について。

民訴法五四五条の請求に関する異議の訴と、同法五四六条の執行文付与に対する異議の訴とは、目的を異にする別個の訴と解すべきものである。したがつて、本件のごとく、上告人らが第一次請求として執行文付与に対する異議を訴求し、予備的請求として請求に関する異議を訴求し、第一審判決において、第一次請求が棄却され、予備的請求が認容された結果、被上告人が第一審判決の敗訴部分について控訴した場合には、上告人らは棄却された第一次請求につき附帯控訴する利益を有するものと解すべきである。しからば、右と見解を異にして、執行文付与に対する異議は請求に関する異議の一態様と解すべきであるから、第一審が排斥した上告人らの執行文付与に対する異議も上告人らの附帯控訴をまつまでもなく審判の対象にできる筋合であつて、第一審で請求に関する異議が認容されて勝訴した上告人らにとつて右執行文付与に対する異議を主張して附帯控訴する利益はないとし、上告人らの本件附帯控訴を却下し、かつ、執行文付与に対する異議について請求棄却の判決をした原判決は、右二つの訴の性質並びに本件附帯控訴の利益についての法律の解釈適用を誤つた違法があり、論旨はこの点において理由があるものといわなければならない。したがつて、原判決中、請求に関する異議の訴についてなされた判決部分を除くその余の部分は破棄すべきものである。そして、右の部分については、原審の確定した事実により自判をするに熟すると認められる。ところで、上告人らの本件第一次請求である執行文付与に対する異議の理由とするところは、本件和解調書には賃料不払を理由とする賃貸借契約の解除が定められており、これは本件執行文付与の条件にあたると解すべきものであるところ、その解除がなされておらず、したがつて執行文付与の条件が成就していないのに本件執行文が付与されたものであるから違法であるというにあることが明らかである。しかし、和解調書において賃料を延滞したときは賃貸借契約を解除することができる旨の条項が定められた場合には、賃料不払による解除の事実は、民訴法五一八条二項にいう「他ノ条件」にあたらず、賃料不払を理由とする契約解除の事実を争つて和解調書に基づく執行力の排除を求めるには、請求に関する異議の訴によるべきであつて、執行文付与に対する異議の訴によるべきでないことは当裁判所の判例とするところである(昭和三七年(オ)第五五〇号、同四一年一二月一五日第一小法廷判決、民集第二〇巻第一〇号二〇八九頁参照)。したがつて、上告人らの本件第一次請求である執行文付与に対する異議は、主張自体理由がなく、結局、右請求を棄却した第一審判決は正当であるから、上告人らの本件附帯控訴は棄却すべきものである。

なお、上告人らのその余の本件上告は、いずれも理由がなく、棄却すべきものである。

よつて、民訴法四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条、九三条に従い、裁判官全員一致で、主文のとおり判決する。(横田正俊 田中二郎 下村三郎 松本正雄 飯村義美)

上告代理人の上告理由

<前略>

三、原判決は請求異議の訴と執行文付与に対する異議の訴との請求の解釈を誤つた違法があり、右の違法が判決に影響すること明らかである。

原判決は後者の異議は前者の異議の一態様と解すべきであるとして、上告人等の附帯控訴を却下した。

然しながら、請求異議の訴は債務名義に記載された請求権の消滅、不発性、主体の変動等を理由とし、従つて、その目的は債務名義そのものの執行力排除にあり、執行文付与に対する異議の訴は債務名義そのものの執行力には何等触れるところはなく、たゞ執行文付与の際に存在すべき実体的条件である条件の成就又は承継の発生を攻撃し、従つて、その目的は個々の執行力ある正本の執行力の排除にある。従つて、前者において勝訴すると、執行文の付与も出来ないが、後者において勝訴しても債務名義は依然有効に存在し、新たな執行力ある正本の付与を阻止することが出来ないのである。よつて、両者は訴の目的物を異にし、且つその攻撃方法を異にすること当然であつて、全然別個の訴であると言わなければならない。(大審院、明治四十一年六月十日判決、一四輯六六五頁。同昭和十五年十月四日判決、一九巻一七六四頁。)

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